「お城の八公狸」 

 山城町岩戸にあった田尾城に八公と言う狸が住んでいた。この狸の額には八の字がハッキリ見られたことから
八公の名がついた。
 八公は人を化かしたり取り憑いたり(狸取り憑き)しないのでお城狸八公と人々に愛され慕われていた。
 ある日八公は父の孫左右衛門が留守なので母の萩に連れられて色々なことを教わっていたが、そこを猛犬に
襲われた。
 萩は「犬だ、上に跳べ」と教え自分は全身の毛を逆立てて猛犬に立ち向かって行った。
 八公が素早く跳び上がって逃げた際、岩角を踏むとそれが石混じりの土であったためザザアッと崩れ落ち猛犬は
鼻先を石に打たれ逃げて行った。
 決死で戦いを挑んだ萩も難を逃れ親子は互いの無事を喜びあった、この時八公は寺子屋のお師匠さんに聞いた
 「親の恩は山よりも高く、海よりも深し」
 と言う言葉をしみじみと噛みしめたと言うことだった。

「狸の嫁入り」(岩戸ほか)

1、昭和4年か5年の蒸し暑い夏の夜、Uさんの祖母が「狸の嫁入りが見える」と呼んだので雨戸の節穴から
覗いてみると向かいの部落に提灯のような火が4〜5個並んで登っては消えるのが見えた。
 それが3〜4回繰り返されたころ怖くなり見るのをやめた。昔の人は「狸の火はよだれが光った物だ」とか
「遠くに見えても狸は足元におる」とか言った。

2,昭和27年4月13日の夕方Hさんは家の庭から近所の幼なじみの女の子らと3人くらいで妙な提灯行列を見た。
 提灯の列は田尾城の下の峠道を登ってSさん宅への方向へ行くので大人達に「嫁入りじゃ」と言ったら
「そんなことがあるか、あそこの嫁入りは昨日の昼間じゃったわ」と言われた。