「川茂五郎」 

 信正名川茂に、川茂五郎という力持ちがおり村人達を困らす狸や暴れ熊などを退治して人々から頼りに
されていた。
 ある日五郎は退屈しのぎに力試しをしようと村人に触れ回った。それは信正ずぎょう山に一晩の内に1人
で伊予川にあるとてつもない大岩を3枚運び上げて重ねて見せると言うものだった。
 五郎は1枚2枚と難なく岩を担いで積み重ねた。が、あと1枚を運び上げる途中、夜明けまでまだまだ時間
があると思い重国坂で大岩を置き一休みしていると突然近くの家の一番鶏が鳴いた。
 驚いた五郎は約束した時間内に3枚の岩を重ねる事ができなかったのを恥ずかしく思ったのかその石を
重国坂に捨て置いたまま行方知らずになった。
 村人達はずぎょうの2枚重ねの岩や、重国坂に置いた3枚目の岩の大きさを見て今更ながら五郎の大力
に感心した。
 その頃から重国辺りで疫病が流行するなど変事が続くようになった、祈祷師に見て貰うと重国坂に置いた
大岩の祟りだという。村人達は相談し、その石で庚申塔を彫り残った岩で台座を積んでお祀りし村内の安全

祈願と五郎の供養をした。
 以来この集落には変事が起こらず平和になったと言う。

 鶏が早く鳴いたのは天邪鬼というものが五郎の力自慢の鼻をへし折ってやろうと意地悪をしたのではと人々
は噂した。五郎を祀るという祠は信正に今でも遺っている。